佐藤くんは甘くない
「……なら、いいのに……」
「え?」
「“恭ちゃん”にならいいのに、俺は、ダメなの」
「佐藤くん……?」
「なんで」
とん、と肩に何か温かなものが乗る。
それが、佐藤くんの頭で。
私に縋るように乗せられた額は、私が離れるようにぽんと叩いてやると、いやいやと言うように肩に額を摺り寄せられる。
「なんで、俺は、だめなの」
それは、聞いている私の胸が、壊れそうになるほど切なくて、か細い声だった。迷子の、帰る場所を失って、途方に暮れる子犬のように。
「なんで、だめなの。なんで」
頭が混乱して、言葉が出ない。
どうして、佐藤くんは私にそんなことを聞くんだろう。
答えなんて、分かりきっているというのに。
けれどその答えを、私の口から紡ぐことはできない。痛いほど、苦しいほど理解しているから、言葉に出してしまいたくなかった。なんて、身勝手なんだろう。ここではっきりと口に出してしまえば、私のこの醜い未練も断ち切れるかもしれないのに。
佐藤くんは、ぎゅうっと、私のお腹に手をまわして抱き着いてくる。その手は、解くにはあまりにも強すぎて、でも、微かに震えていた。
「───どうして、あそこで、抱き合ってたの」
「……」
「結城は、瀬尾が好きなの?」
「……」
「答えてよ」
「……」