佐藤くんは甘くない

何も答えられない。答えを、口にできない。

そんな私を、佐藤くんはどう思ったのか分からないが、小さな声でつぶやいた。お腹に巻き付いた腕は、ぎゅうっと力を込めて、離さないというように。


「結城は、どう思ってるの。俺のこと、どう、思ってるの」

「……」

「教えて、よ」

「……大切、ですよ」

「もっと、ちゃんとした言葉でほしい」

「……」

佐藤くんは、きっと混乱しているだけなんだ。

私たちはずっと馬鹿をやってくるような友達で、悪友で、だから、戸惑っているだけなのだろう。

私と恭ちゃんが抱き合っていたことも、そう、びっくりしているだけ。……だから、自分の都合のいいようには捉えてはいけない。


私はお腹に回った手のひらをぽんぽん、と優しく叩いて離してもらえるように、声を掛ける。

「佐藤くん、そっち向きたい」

「……」


何も言わないまま、少し間をおいて、腕の力が緩まるのを感じ私はゆっくりと振り返る。そこには、なんとも言えない言葉に表しにくい表情をした、佐藤くんが見捨てられることを恐れる子犬のような瞳で、私を見る。


「今は、佐藤くんたちのほうが大事でしょうが。佐藤くんは別に、私たちのことを気にしなくてもいいんですよ」

「……ちがう」

「何が違うんだか。せっかく、ここまでやってきたんですから、二人にはもっともっと仲良くなってほしいんです」

「ちがう」

「……えっと?」


「ちがう。結城たちを気遣って、そう思ってるわけじゃなくて。そうじゃ、なくって。俺は、ただ、なんか二人を見てたら、すごく、」



言葉を探るように、佐藤くんが途切れ途切れに繋げる。すごく、と口に出した佐藤くんが目を見開いたまま、口を閉ざす。



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