佐藤くんは甘くない
その声は、ふいに、降りかかってきた。
そして、それと同時に、ふわりと後ろから腕が回ってきて、ぎゅうっと後ろに引き寄せられる。
時間が、止まったのかと、思った。
何も聞こえなくなって、真っ白になった私の耳元で、その声は鮮明に響く。
「遠回りして、ごめん」
「……さ、とうく」
「たくさん、傷つけて、ごめん」
ぎゅう、とその腕に力が込められる。
私は言いようのない感情に包まれて、視界が一気にぼやけた。あんなに泣いたはずなのに、ぽろぽろ涙は零れ落ちて、止まることを知らない。
私は抱き寄せられたその腕に、そっと手を伸ばして、握りしめると耳元で、ふっと苦しげに息をはく音がした。
「すき」
「……ぁ、」
「すき、結城が、好き」
「……っ」
「好き、離したくない。隣が、いい。結城じゃなきゃ、嫌、なんだ」
「……わたしは、」
「言って、もう一回、言って。そうしたら、これが夢じゃないって、思えるから」
ふっと、腕の力が緩まる。
私はゆっくりと佐藤くんのほうを振り返った。佐藤くんは、ただ今にも泣きそうになりながら、それを堪えて、それでも微笑んで見せた。私を安心させるように、柔らかな笑みを。
「私は、佐藤くんが、すき」
ぽたり、と頬から涙が零れ落ちた。
まるで、溶けた雪が、物語の終わりを知らせるように。