佐藤くんは甘くない
小さく笑う私を見て、佐藤くんはますます不機嫌に口を膨らませて、
「……もう帰る」
と踵を返そうとする。
ちょ、ちょ、ちょ……!
今まさに、玄関のドアを開けて颯爽と帰ろうとする佐藤くん。
私はあわてて、後ろから佐藤くんのブレザーを掴んだ。
「す、ストップ、ストップ佐藤くん!」
「うぐっ……てンめぇ……!」
あちゃ。
あんまりに引っ張りすぎたせいか、反動で首を絞めてしまったらしい。
佐藤くんが腹の底から絞り出したような、ドスの聞いた声がして私はあわてて離した。
「す、すいません」
「……殺す気?」
「け、決してそんなつもりでは無いっす」
佐藤くんからの疑いの瞳が私を突き刺す。こええ。やべえめっちゃこええ。
額に冷や汗が頬を流れ落ちそうになったその時、
「こーはーるー、できたわよー取りに来なさい」
玄関に続く廊下から、お母さんの声がした。