佐藤くんは甘くない
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「じゃあ、もう一度作戦のおさらいをしましょう」
私たちは、多くの人が疑いの目でやたら見てくるのも気にせず、廊下の物陰でしゃがみこんで顔を近づける。
佐藤くんはやたら緊張しているせいなのか、私が案外近くにいても驚かない。
物凄い険しい顔で眉を寄せて、
「サヘラントロプス・チャデンシス、オロリン・ツゲネンシス、アルディピテクス・カダバ、アルディピテクス・ラミダス、アウストラロピテクス・アナメンシス、」
と何やら呪文のような長い分をずっと復唱していた。
よく聞いてみたら、人類種を順番に復唱していた。
どんだけ緊張してんだよ佐藤くん。
「今、ひよりちゃんが職員室で先生の所に提出物を出しに行ってます」
視線を横にやると、瀬尾が小さく頷いて、
「んで、朝比奈が出てきたところで、」
「佐藤くんがさりげなく、職員室の前を通って生徒手帳を落とす!」
「……ぁ、うん」
佐藤くんがはっと我に返ったように、こくりと頷いた。