佐藤くんは甘くない
「───あ」
ひまりちゃんが、先生と話すのを止めて落とした生徒手帳を拾い上げた。
よし、さすがひまりちゃん。優しさの鏡!
「来ました!瀬尾、準備して」
「了解」
瀬尾が角からタイミングを見計らうように、私と一緒に角から覗き込む。
「これ、落としましたよ」
ひまりちゃんが拾い上げた生徒手帳を佐藤くんに差し向ける。
佐藤くんがぎこちないくらいむすっとした顔立ちで、彼女を振り返った。
ま、まあ。
その場で逃げ出さないだけ、結構成長したほうだ。
絡まれた不良を見るような目だけれども。
「あ、佐藤くんだ」
ひまりちゃんが佐藤くんの顔を見ると、ふわっとひまわりのような温かな笑みで笑いかける。
その笑顔に、佐藤くんがうっと呻きを漏らした。
今の佐藤くんにあの笑顔はやばい!
みるみる内に顔が赤くなっていく佐藤くん。
「あ、やばいやばいやばいやばいっ……!佐藤くんの緊張パロメーターがぶっちぎりそう……!せ、瀬尾!出動!」
「了解……!」