夢幻罠
…まさかだった。

まるで遊園地の鏡の間だった。

その2m四方のスペースはよく見ると正八角形だった。

細く歪んだ俺の姿が至る所にあり、キョロキョロと動かす自分の首が、まるでロクロ首のように不気味に映った。

目を閉じた。

…耳に気怠く、しかもポップなリズムが入ってきた。

たぶん“プリンス”だろう。…それはいいけど、なぜバーに入るだけでこんな苦労しなくてはならないのだ。

…どうすれば次の間に入れるのだ。

目を開けた。

どんぐりのように目を丸く見開いた俺の姿があった。

情けないことにその自分の姿に、…ちょっと驚いていた。

ふーっ、と溜め息を吐き出した。

鏡を一枚一枚凝視した。

この面だけ異様に手垢で汚れている。

手垢に掌を重ねた。

グラッ!

と、倒れるかのように開き、強い光の束が白いカフスを鏡面に変えた。

「いらっしゃいませ」

太い男の声がした。

半階下がっているフロアを見下ろした。

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