夢幻罠
一番奥に浮き上がるようにカウンターがある。

そこに先程の声の主と思われる男がシェイカーを振っている。

客はカウンターにいる髪の長い女だけだった。

女の髪は首の所で束ねられ、前側に垂らされていた。

服装は黒のジャケットにスカート、それにストッキングまで黒で統一していた。

しかし襟だけは鮮やかな黄色を使っていた。

その配色に高額の強壮ドリンクのラベルを思い出した。

目を引くと感心した事があった。

まさしく彼女はそれを応用していた。

強壮ドリンクのラベルから発想したわけではないだろうが、結果的に、後姿なのに、強力な存在感と、“ファイトを一発”出していた。

そして、これでブスなら自分の醜さを強調するだけだがと、いらぬ心配もした。

次に内装を見回した。

壁と備品は黒と白でコーディネートされ、床の一部は透明な硬質ガラスで出来ていた。

そこに一歩踏み出すと、下から赤と青のライトが交互に照り始め、一瞬無重力の宇宙空間に放り出されたような錯覚を覚えた。

これなら銀座、六本木に移動したとしても違和感のないショット・バーだ。

しかし何でこんな田舎にこんな洒落た店が、

―――解せなかった。

俺は右側の階段を使いフロアに下りた。

床から照らすライトの間を歩き、女から三つ離れた足の長いバーチェアーに腰を掛けた。

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