夢幻罠
バーテンは何も言わずにお冷とおしぼり、それにメニューを置いた。

そしてカウンターに屈み込むと無言で作業をはじめた。

隣の女がどうしても気になり、煙草を口にくわえると、彼女側にライターを構え、炎越しに観察した。

小さな顔だった。

そしてドキッとするほど色白だった。

ほおに手を伸ばせば、そのまま通り抜けるのではと思えるほどの透き通る肌をしていた。

唇には切なくなるほどのうすいピンクのルージュが引かれていた。

鼻筋は通っていて、高過ぎも低過ぎもせず理想的に思えた。

首は、そこに手を添え少し力を加えれば簡単に折れてしまうのではと思えるほどか細かった。

女がこちらを向いた。

俺は慌てて視線を逸らした。
そして煙草を深く吸い込んだ。

もし許してもらえるのなら、気の済むまで眺めていたかった。色々な角度から見てみたかった。

それほど可憐な容姿だった。

一瞬見た前向きの顔は、切れ長の双眸で、白目の部分が淡いブルーの美しい目だった。

歳は20歳少し過ぎと思えた。一人でバーに来るくらいだから、20歳は過ぎているだろう。

しかしこんな所は似合わなかった。

一人でバーに追いやる原因を作った男がいたとしたら、その男を許せない、とまで考えてしまうほどの美人だった。
< 14 / 64 >

この作品をシェア

pagetop