夢幻罠
「ありがとう」

彼女は切れ上がった目じりに皺を作って喜びを表わした。

ここで畳み掛ければ、暇を持て余している彼女は相席をOKしれくれるかもしれない。そして場合に拠ってはそれ以上の……

「隣の席に移ってもかまいませんか?」

彼女は品定めをするように俺の全身にサッと目を通すと、上を向き、遥か彼方のボイジャー2号を眺めるような視線をした後に、

「えぇ、私も退屈していたところです」

と、ほおを染めて言うだろう?

しかし俺は軟派をする気分にはなれなかった。

…疲れていた。

それにそういう気持ちを浄化させてしまう何かを、彼女は備えていた。

…それは何だろうと考えた。

数日前に見た夢を思い出した。


―――雑踏の中で俺はアイスを食べていた。

その時人々を通り越して、ひとりの少女に目を奪われた。

彼女も俺をみとめた。

次の瞬間突風が吹き、まわりの雑踏が吹き飛ばされた。

そしてどこまでも続く草原が広がった。

彼女がシートを広げ、俺たちは腰を下ろした。

俺はこの景色に羊がいないのが不思議だった。

何故なら、クラーク博士の腕を掲げた像があったからだ。
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