夢幻罠
それを彼女に尋ねた。

「羊ならいるわよ」

と、さも当然そうに答えると、籐の小さなバスケットを開けた。

中からネズミぐらいの羊が、後から後から湧くように出てきた。

ちゃんと丸い角も、カールした長い体毛も持っていた。

小さいだけで、どこから見てもりっぱな羊だった。

羊たちはまわりに一列に整列した。

そして、声を揃えて“メリーさんの羊”を歌い出した。

ふと彼女に視線を戻すと、消えていた。

そこには一輪のスミレが咲いていた。

それが彼女の変身した姿だと直感した。

俺は可憐なスミレを色々な角度から眺め、悦に入った。

羊たちがスミレの側に寄って来た。

そして食べようとした。

俺は必死に守った。

一匹の羊がスミレをくわえた。

「やめろ!!」

その時、目が醒めた。
…こんな夢だった。

(そうか!?)

彼女はスミレなのだ。

どこまでも続く草原に咲く、一輪のスミレなのだ。
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