夢幻罠
首まわりにだけ黄色を使った配色が、闇の中だと首から上だけを浮き上がらせていたのだ。
狼狽した自分が恥ずかしかった。
だが、幽霊を恐れた訳ではないと自分に言い聞かせた。
ただ誰もいない筈の助手席に、人の首が存在していた事が理不尽だったからだ。こんな理不尽を目のあたりにして、冷静でいられるほうが尋常ではないだろう。
「何で君が?」
「車の外で待ってたんですけど、あなたが余り遅いので、…中で待たせてもらったんです。ごめんなさい」
「うっうん。それはいいけど、何故?」
「私をどこかに連れてって」
…何を言ってるんだこの女は?
…誘惑か?
…でも、そんな事をする女には見えないが………
「どこかって、どこ?」
「だから、どこかよ」
「フフ……会話になってないよ」
やっと笑いが出た自分に安心した。
「車の中で後は聞くよ」
夜露がしっとりと肩を濡らし始めたからだ。
彼女の打ち明け話とは、奇想天外、奇妙奇天烈、摩訶不思議なものだった。
気がついたら、バーの側の道脇の草原の中に倒れていて、自分がどうしたのかも、何をしていたのかも分からない。