夢幻罠
「あなたが、いい人だと思ったから」
「…こんな美人が相手じゃ、いい人でいられる自信ないぜ」
「それは、ほめ言葉と受け取ればいいのよね」
「勝手にしろ」
俺はギアを叩き込むと、アクセルを踏み込んだ。
車は飛ぶように発進した。
助手席では抑えた泣き声が始まった。
俺は急に哀れを感じた。
「泣き虫は、ここで下ろしちゃうぞ」
と、努めてひょうきんに言った。
「クスン…じゃ、泣きやめば連れてってくれるの?」
俺は無言で頷くと、ダッシュボードを開けてタオルを取り出し、彼女に渡した。