夢幻罠
「どっどうしたのですか?こんな所に?」

「ええ。彼と喧嘩して、ここで降りちゃったんです」

「はぁ」

「かわいそうだから、乗せて上げましょうよ」

腕の下から声がした。

「是非お願いします。このままじゃ時間の問題で幽霊になってしまいそうです」

ガサゴソと助手席に戻った彼女は、

「私からもお願いします」

と冷静な声を出した。

後ろのドア・ロックを外した。

女は銀色のベルトをきらめかせ、白のワンピースをひるがえして走ると、すぐに黒い大きなショルダーバックを抱えて戻ってきた。

俺はフロントガラス越しに女の行動を見ていて、火の玉の正体が分かった。

それはフロントガラスに付いている水滴がプリズムの役目をし、銀のベルトが反射したライトを、赤や橙、黄色に滲ませ、尚かつ乱反射させ、小さな点滅する光の玉を霧のスクリーンに映し出していたのだ。

後部座席に乗った女の顔を改めてライトの下で見た。

(……!?)

別の驚きが脳細胞を震撼させた。

凝視した。

次に恐るおそる助手席の女を見た。

二人が同一の顔に見えたのだ。

再び後ろの女を見た。
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