夢幻罠

1

霧の濃い夜だった。

俺はいらついていた。

車はさっきから動かなかった。

国道は土、日、月曜日と続いた連休のために自然渋滞を呈しているのだ。

前の車は二組のカップルが乗っているようで、菓子を食べながら談笑しているのがわかった。

キャッキャッ!

と、はしゃぐ声が聞こえそうな雰囲気で、まるで渋滞を歓迎しているかのようにも見える。

…こっちは仕事なんだよ!

…クタクタなんだよ!

…おまえらみたいな脳天気が、連休ごとに出掛けるからこうなんだよ!

…いい加減にしろ!

俺はコンピューターやコピー機などの事務機器の販売会社のセールスマンをしている。

客の指名した今日、コンピューターの操作方法の説明に伺った帰りだった。

俺には日曜も祭日もなかった。

しかし決まった仕事のない時は、朝会社を出るとこっちのものだった。
アパートに戻って寝るのも、映画を見るのも勝手だった。

今月はうまくいって、既にプランを達成しているので、明日からはのんびりしようと思っていた。

車がゆっくり動きだした。

しかしこれでは歩くほうがまだ速いだろう。

…いつまでこんな状態が……?
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