夢幻罠
「私の顔に何か付いてます」
「あっごめんなさい。あまり美人なもので」
女の目は切れ長ではなかった。大きかったがどちらかと言えば垂れ気味だった。鼻の形も違っていた。鼻先のツンとしたアイドル・タイプだった。口は大きめでイタリア美人を思わせた。
二人に共通項は、小さな顔の色白美人ということだけだった。
しかし何故か似ていた。
…同一の顔に見えたのだ。
今日は不思議な事がありすぎる。
それに比べたらこんな事は取るに足らない事だと考えるようにした。
「ええと、これからどうします?」
「…早くここを離れたい気持ちです」
「…でも喧嘩した彼が捜しにきませんかね?」
「いいえ。来ません」
と、彼女は断言した。
「普通の男ならこんな暗く寂しい所に、いつまでも放っておかないでしょう。ましてや、君のカレシだ」
「…恥ずかしい話ですが、本当は私、…」
急に声のトーンがおちた。
「…家出して来たんです。そして二人組みの男に甘い言葉で誘われ、ここまで来たんです。そうしたら突然狼に豹変して、…」
「エッ!?それで?」
「夢中で逃げて、それでも追って来る彼らを、これで、…」