夢幻罠
女は例の黒いショルダーバックから大きめのタチバサミを出した。
「わっ分かったから、しまって!」
俺は慌てて言った。
「まさか?それで刺したの?」
助手席の彼女が驚いたように聞いた。
「いいえ。脅しただけよ」
「フーン。それにしては服が綺麗ですね?」
「見ます」
女はショルダーバックから、泥に汚れたモスグリーンのワンピースを取り出した。
よく見ると、裾や袖の一部が破れていて痛々しかった。
「私、着替えておいたんです」
「ごめん。疑うようなこと言って」
俺は頭を下げ、服から目を逸らした。
「いいえ、私のほうこそ、折角のデートを邪魔しちゃって」
助手席の彼女がクスッと笑った。
「恋人同士に見えます」
「ええ」
女は何を言っているのだというように頷いた。
「実は、私もあなたと同じなの。彼に拾われただけなのよ」
「…そうなんですか?」
「で、どこに行けばいいんでしょうか?」
と、俺は割って入った。