夢幻罠

4


俺は一段と濃くなってきた霧の中を慎重に車を走らせた。

木々は夜霧によって生を与えられ、襲いかかる瞬間を待っている暗黒の怪物に見え、ライトの届かない漆黒の闇は永遠の闇の入口を予感させた。

そろそろ小さな吊り橋がなければおかしいのだが、……

…道を間違えたかな?

ここまで走っても、未だに見覚えのある道に出会わなかった。

根本的に違っているような気がして仕様がなかった。

迷宮にまよい込んで何度も同じ所をさまよっているような錯覚を、霧と変わりばえしない闇が与えた。

…それともそれは錯覚ではないのかも!?

…俺にとって信じられるのは黄色のセンターラインだけだった。

「エッ!?あれなあに?」

助手席の彼女が前方の闇を指差した。

そこに青白い光芒をみとめた。

確かに何かいる!!

それは闇に浮遊するように光の尾を残しながら、地面と平行に左に移動した。

ライトがその物体を一瞬捕らえた。

光芒は赤色に輝き、薄茶色の体毛をした胴の長い獣が現れた。

「オオカミかしら?」

彼女は俺の存在を確かめるように左腕を握った。
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