夢幻罠

6

二つ合せたベットに重なるように寝ている彼女たちを残し、俺は出社した。

いま俺はあくびを堪えている。

この退屈な会議が終わったら、一度アパートに戻ってみようと考えている。

しかし何気なく取った電話が予定を狂わした。

それはデータ・ベンチャーズという情報処理会社からのコンピューターの商談だった。

その会社を調べた。

東証二部に今年上場したばかりの若い会社だったが、業績は驚くべきものがあった。毎年売上げを倍々に伸ばしていた。

そのデータ・ベンチャーズ社の他にも数社まわり、結局アパートに向かったのは夜の7時を回ってからだった。

俺はアパートの側まで来て、頭と心臓が緊張と焦燥で渦巻いた。

もうお荷物たちには消えていてもらいたい。

一夜だけの夢だから素晴らしいのだ。

しかしもう一方では、狂おしいまでに求めた。

彼女たちのいない人生なぞ、色を失った世界のようにも思えた。

でも、これ以上居てもらうと生活が関わってくる。
それが三人ともなると想像もつかない。

なだらかなカーブに差し掛かった。

…このカーブを曲がり切ったら、アパートが見えるのだ。

部屋の明りを見るのが怖かった。

恐らく消息も残さず消え失せているだろう。

いや、それで良いんだ!でも、もう一目だけでも…。
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