夢幻罠
会社に電話した。
…ファクスで送ってもらおうと考えたのだ。
受付け嬢の小早川律子が出た。
課長はいるかと聞いた。
課長以下全員が出払っているということだった。
用件を聞かれたが、彼女では分からない思い、言わなかった。
電話を切ろうとした俺の耳に、
「ねぇ、このあいだのお誘いはまだ生きているの?」
という声が飛び込んできた。
…何の事か分からなかった。
「一ヶ月前に飲みに誘ってくれたでしょ」
俺はやっと思い出した。
少なからず彼女に好意を持っていて、何回か誘った事があったのだ。
しかしその度に苦汁を飲まされていた。
「どういう心境の変化なの?」
「…最近あなた、瞳に輝きと余裕が見え、なにか魅力的になったわ」
そんなものかなと思った。
しかしもう女はいらなかった。三人でも持て余し気味なのだ。
「ごめん。今日はちょっと」
「いつならいいの?私はいつでもいいわ」
「ごめん。しばらく無理みたいだな」
「そう、それならいいの。別にあなたじゃなくても、いくらでも飲みに連れて行ってくれる人はいるんだもの」