夢幻罠
「大丈夫ですか?」

と心配そうに声を掛けてきた。

俺はやっと、

「えぇ、…なっ何でもありません」

と声を絞り出した。

車のシートに体を沈めると、少し落ち着いた。

車を走らせながら、原因を考えた。

原因があるから死体があるのだ。

勿論俺には心当たりはない。

…死体の男は60才前後に見えた。

かなり高そうな背広を着ていた。

腐敗ぐあいだと死後一週間以上は経過しているように思えた。

外傷は気づかなかった。

この前いつトランクを開けたか考えた。

…夜霧の日に行った得意先で開けていた。

その時、確か、分厚いコンピューターの解説書をそこから出し、操作方法を教えてきた。

と、いうことは、入れられたのはその後ということになる。

霧の夜の行程を辿った。

入れる時間的余裕があったのは、不夜城というバーに入っていた時だった。

髭面のマスターの顔が蘇ってきた。

彼が犯人だとすると、飲んでいた時は側にいたから、鏡のトイレに入っていた時だろう。

その間の時間は正確には分からないが、…思っているより長時間だったかもしれない。
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