夢幻罠
月光に青白く、太い竹の根が光った。

トウグワに持ち替え、力一杯振り下ろした。

エッ!?

竹とは明らかに違う、柔らかい感触が掌を包んだ。

ひざまづき、刺さったクワの刃の辺りを手で探った。

…背筋に冷気が走り抜けた。

俺が切った物は、乳飲み子の足だったのだ。

左足の大腿部から先が消え失せていた。

…むごいことしちまった。

…でも何故?

…男の上に重ねて置いた筈なのに、何故、穴の中に……。

作業中の振動で、転がり落ちた。と、思うようにした。…これ以上深く考えたくなかったのだ。

俺は地べたに座り、乳飲み子に合掌した。

その後、穴の中を隈なく捜したが、切った足はなかった。

穴の周りも捜したが、不思議な事に見つからなかった。

一刻も早くこの場所から退散したい、という気持ちが強く湧き起こった。

俺は捜すのを中断して、穴掘りの作業に戻った。

十分とは言えないが、何とか掘れた。

穴の中から泥を出来るだけ取り除いた。

男の死体を穴に放り投げようとして手が抜けず、一緒に転がり落ちた。
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