夢幻罠
…背筋が凍った。

悪臭とべたつく何かから逃げる事だけを考え、
溺れる子供のように無我夢中で穴から出た。

他人がその場面を目撃したら、墓から這い出すゾンビにしか見えないだろう。

次に乳飲み子を男の脇腹の辺に放り落とした。

乱暴に扱ったのは、とても穴の中に入る気になれなかったからだ。

彼らの上に土をがむしゃらに掛けた。

そしてスコップの腹で叩き、靴底で踏み、土を固めた。

最後に、カモフラージュの為に枯葉を掛けた。

俺は敗れた兵士のように、スコップを突き、足を引き摺りながら車に向かった。

車のすぐ前に、一瞬だが、青白く光る物を認めた。

懐中電灯を点けた。

それを照らした。

……

…愕然とした。

…言葉にならなかった。

それは乳飲み子の足だったのだ。

…何故、こんなとこに!?

トウグワの衝撃で飛ばされたのだろう。が、距離は40mはゆうにある。

…こんなバカな!?

物理的には不可能だろう。

…だが、今物理学を論じている余裕はない。
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