夢幻罠

8

それから4日間が俺の気持ちだけ置いて淡々と過ぎていった。

部屋で虚ろな気持ちでグラスを重ねている時、刑事に押し入られた。

なす術もなく連行された。

例の死体が発見されたのだった。

それは墓地の近所の飼い犬が乳飲み子の足をくわえてきたのが、発端だった。

簡単に、隠れるだけしか土を掛けなかった事が見つかった原因だろう。

でも何故、俺に逮捕の手が伸びたのか聞くと、男の背広の胸ポケットにご丁寧に俺の名刺が入っていたということだった。

それと男の人差し指の爪の中から俺の髪の毛が見付かり、既にHLA(*細胞の指紋)も確認済みということだった。

俺は唇を噛み締めた。

…そこまで聞いて、周到な計画のもとに落とし入れられたのだと気付いた。

刑事がハンカチを差し出した。

唇の血を拭けという意味だろう。

俺は頭を振ると、自分の舌で血を舐めた。

その後、手まわし良ろしく、俺の車のトランクから男の細胞の一部が見付かった。

タイヤに付いていた土も墓地の物と断定された。

そして墓地の木から車の剥げた塗料も発見された。

その男は名のある画伯で、歳は61才、世田谷区に家族と同居していたが、放浪癖があるため、既に20日間家を空けていたが、家族はそれほど心配していなかったということだった。
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