夢幻罠
パッシィングの意味は何だろう?
遅い!抜かせろ!
という意味ではないだろう?
無理をしても抜ける道幅ではなかった。
では、危険が迫っているのを教えてくれたのか?
速度を落とし、まわりを注意深く見回した。
まわりは田んぼだった。
後ろの車のライトのお陰で僅かにきらめく物が水面を表しているのが分かる。
…まさか、この田んぼにカッパがいるから気を付けろ!
ということはないだろう?
(アッ!?)
タイヤが滑った。背筋をヒヤッとするものが走り抜けた。
轍(わだち)から飛ばされたのだ。
道は悪路だった。
農家の人たちが耕運機や小型自動車を使用するためだけに造られているような道で、勿論無舗装だった。
深く刻まれた轍がタイヤのサイズに合わず、気を抜くと滑ってしまう。
(ウ!?)
また後輪が軽くスライドした。
いつの間にか拳に汗をかいていた。
きつくハンドルを握り締め、フロントガラスに額をくっ付けるようにして慎重に運転した。
やっと狭いあぜ道を抜けた。
少し道幅が広がった。