夢幻罠
左側に現れた家の明りが、フロントガラスに付いた水滴に乱反射して、消える前の線香花火のように映った。

数軒の民家を過ぎた。

両側を高い木で囲まれた道が続いた。

前方はまるでブラック・ホールにつながっているように見える。

すべての光が飲み込まれてしまっている。

行けども行けども、鬱蒼とした林が続いた。

…あれは何だ!?

フォグランプの黄色い光に照らされた物に目を凝らした。

墓石だった。

道の正面にそこが終点のように墓地が広がっている。

荒れた墓地だった。

雑木林のように低い木木が生茂り、蔦(つた)は墓石に絡まっていた。

今にも倒れそうな傾いた墓石もある。

目を逸らした。

以前はたまにこの道を使っていたが、一度、今日のような夜にこの墓地を見てから使わなくなったのだ。

ここには寺はなく、見捨てられた無縁墓地のような気がした。

逆方向からは太い幹が邪魔をし、まるで墓地の存在が分からなかった。

1年ほど前の夜、初めて存在を知った。

それまで逆方向からだけだが十回ちかく、この道を通ったことがあったが、気付かなかった。
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