夢幻罠
それだけに不気味だった。

認識していたと思った道に、突然認識外の物が現われたのだ。

それも荒れた沢山の墓石が……。

突然降って湧いた訳ではないのは分かる。

一瞥しただけで古い物だということは、……。

そして密集した林が隠していた事も……。

しかし人家のまばらな、しかも寺のない所に、こんな大きな墓地がある事が理不尽だった。

俺は人並み以上の怖がりではない、霊魂も幽霊も信じていない。

ただ理不尽が、納得出来ないものが怖かった。


その墓地のある急カーブを過ぎると、後ろのライトが見えなくなっていた。

すぐ追いついて来るだろうとルームミラーを頻繁に覗いたが、いつになっても現れなかった。

どこから居なくなったかを改めて考えてみると、情けないことに確信が持てなかった。

墓地の所だったのか?

その前の林間道の所だったのか?

…あぜ道を抜けるまでは確認していた。

…どこだろう?

不意に背筋に寒いものを感じた。

でも理性が首を横に振った。

すぐに追い付いて来る。

追い付いて来なければおかしかった。

少し速度を落とそうかとも思った。

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