君と話がしたくて
寒い寒い冬の日に
その日は初雪が降る日だった。
外の街並みがクリスマスカラーに染まりつつある中の雪。
多くの人は胸を踊らせている事だろう。
まあ、そんな人達は皆恋人がいて、友達が多くて、もうクリスマスの予定が入ってて...。
「はあ、そんなリアル、俺にはやってこないっての...」
スタジオ鳴海と言う高いビルの一室。
一人でいるこの寂しい空間に菅田誠也はそんな言葉を吐き捨てた。
誠也は声の仕事をしている。
言わば声優と言うやつだ。
高校を卒業後大学に入ったものの、将来やりたい事が見付からず、大学の先輩に「お前何も良い所無いけど、声だけは良いよな」と言われた事を切っ掛けに声優オーディションに参加…。なんと、一発でオーディションに上がり、大学を中退して声優へとなった。
なんやかんやと、あっと言う間に時間は過ぎて27歳。
一緒に仕事をする人達は気さくでいい人達が多く、自分からもグイグイ行く方の誠也は毎日をそれなりに楽しく過ごしていた。
が。
「なんで俺だけクリスマスの予定入ってないんだよ...」
回りは飲み会や合コン、彼女と過ごします☆なんて言う輩もいる。
一歩出遅れた自分は、寂しい一人ぼっちのクリスマス...か。
虚しさに誠也は泣きそうになった。
「菅田さん。次の収録そろそろ始まりまーす。」
突然ノックも無しに入ってきたのは、誠也のマネージャーをしてくれている、矢代凛太郎だ。
マネージャーと言っても、何人か一緒に見ているから専属マネージャーな訳ではない。
そんな矢代は動きやすいパーカーにジャージのズボン、スニーカーで黒縁眼鏡の姿をしている。
「矢代君はさぁ...クリスマs」
「友達と飲み会っす」
「で、ですよねー」
そんなばっさり言わなくてもって言う位ばっさりと凛太郎は誠也に言った。
「菅田さんはまだ予定は未定何ですか?」
「うっ、うるせぇ...。」
「あはは。去年もそうでしたね」
そう、去年もなぜか出遅れて独りでクリスマスを過ごしたのを覚えている。
「あれは...。寂しかったなぁ...。」
誠也は遠くを見つめる。
「そんな染々言わないでください。寂しくなるじゃないですか」
「俺は今現在で、絶賛寂しくなってる中だよ!!」
誠也が叫ぶ中、凛太郎は腕時計を見てハッとする。
只今PM7:26。
次のスタジオは同じスタジオ鳴海だが、収録は7時30分からだった。
凛太郎は急いで誠也を立ち上がらせると、無理矢理腕を引っ張って次のスタジオに走った。
(27歳と25歳が腕繋いで走っていく姿なんて誰も見たくは無いだろう...。)