コノ想い届ケ
第五章
「さて……いよいよだ…」
その日は満月。
月は雲に覆われることなく、夜道を照らしていた。
そして、悠は屋根の上にいた。
「来ましたね…」
屯所を飛び出し、月明かりに照らされて夜道を歩いてくる影。
それは、人のようにも思われ、鬼のようにも思われる。
「人を襲ったのですか…」
姿がはっきり見えた時、それの口回りは赤く染まっていた。
人?動物?
何を食べたのかは分からない。
『ぐ…ぁ……。血……ニク……』
「人間の血肉は毒だと教わらなかったんですか?」
悠はスラリと刀を抜いた。
その刀身はいつも以上に輝いているように思えた。
「とりあえず、これ以上の勝手は許しません。」
悠はそれを右肩から腰にかけて斬り捨てた。
が、それは死なない。
傷はみるみる修復していく。
「やっぱり、一筋縄ではいきませんか…」
それは刀は持っていないものの、指の爪は鋭く伸び、十分な武器になった。
そして、それを悠に向け、振り下ろした。
「人間など食べるものではありません。」
悠はそれの心臓を鋭く突いた。
それは次第に動きを止め、砂のように消えていった。