ひとりぼっちの藤棚
「あー、あの藤棚な。もう咲き始めたってばーちゃんが言ってたわ」
翌日、少し気になって、友人である達也に藤棚のことを訊いてみた。
達也は学年一番、いや、学校一番と言ってもいいほどの情報通だ。
案の定、藤棚のことも知っていた。
「幽霊藤棚って言うのか」
「めずらしいな時彦。そこまで知ってるのかよ」
めずらしいのはお前だ。
なんで父さんの時代のことを知ってるんだ。
長くなりそうだから訊くのはやめる。
「ばーちゃんの時代からあったらしいぜ」
「そうなのか」
納得。
「ばーちゃんは幽霊なんかいねぇって言ってたけど、どうだかな。……時彦は幽霊とか信じないんだっけか」
「信じるほうがおかしい」
「相変わらず冷めてるなー。よくあるじゃん、実際にあったこわいはなしとかよ」
「あんなドラマ、実際になくても作れる」
俺は見たことがない。
だから、信じない。
「時彦らしいな。俺は信じるね。美人な幽霊でも出てきて彼女になってくれねぇかな」
無理な話だ。
いろいろと、無理な話だ。
「……もしかしたら美人幽霊がいるかもしんねぇし、今日行ってみようぜ」
「どこに」
「流れからして藤棚だろ!時彦って頭いいんだかバカだかわかんねぇな」
「お前ほどバカじゃない」
達也以下のバカは多分いないだろう。
それに、達也の言うことはどこまでが冗談なのかわからなくて困る。
「どうせ暇だろ?」
「どうせってなんだ。……暇だけどな」
「ほらな」
こんな田舎ですることと言えば家でゲームぐらいだ。
そのゲームも全部クリアした。
「じゃ、決まりだな」
「あぁ」