蜜月クライシス!【BL】
その日の放課後、晶は委員会の仕事で寮に帰るのが遅くなっていた。
いつもなら愛する恋人──咲都と一緒に帰って、彼の部屋から追い出されるまで一緒に居るのだ。
その大切な時間が少しでも削られてしまったと思うと居てもたっても居られず、今すぐ咲都を抱き締めたい、と心の中で叫びながら寮のエントランスまで猛ダッシュでやって来た。
もう少しで咲都に会える!
声に出してしまいたくなるのをグッと堪えて、咲都の部屋へと廊下を曲がった瞬間──
「──兵藤!」
走り出し掛けた彼を、良く知る声が呼び止めた。
気付かない振りをして行ってしまおうと思ったが、つい声のした方へと顔を向けてしまっていた。
「こんな時間に珍しいな。咲都はー……一緒じゃねぇのか」
「委員会で遅くなったんだ。それじゃ」
「なんだよ。どこいくんだよ」
話し掛けてきた相手──晶の愛する咲都と幼馴染みで、寮では同室と言う何とも羨ましいポジションにいる高槻彰那は、踵を返し掛けた晶の肩を掴んで止めた。
「今すぐに咲都のところへ行くんだ。放せ高槻」
「気持ちはわかんねぇでもないが……安心しろ、咲都は逃げねぇよ。ちょっと付き合え」
「嫌だ。俺はお前の顔なんて見ていたくない!」
「俺も同感だ。でもお前にしか話せねぇっていうか……」
「俺の優しさは全て咲都に注ぎ込んでいるんだ。お前の悩み相談なんて聞きたくないね!」
「コレを見てもそんなこと言えるか?」
ニヤ、と口角を上げた彰那は、ポケットから携帯を取り出すと、一枚の画像を晶に突き付ける。
そこには、無邪気に笑う幼い頃の咲都の写真が写っていた。
一部にフラッシュの光が写り込んで咲都の顔が白く光り気味ではあるが、晶にとっては喉から手が出るほど欲しいレアアイテムだ。
彰那への微妙な対抗意識はすっかり消え失せ、晶は彼の手ごと掴んで携帯を凝視する。