大好きな君へ。
 板絵が納めてある経蔵と言われるお堂の中には、手で回せる輪蔵があったのだ。


私達はそれらを鑑賞した後すぐに次なる目的地に急いだ。


十四番今宮坊は小さなお寺だった。
でもそれに似合わないような大木が右の角に聳え立っていた。
駒つなぎの欅と言うらしい。
その下には可愛らしい聖徳太子の像があった。



 「おん、あろりきゃ、そわか」
聖観音のご真言を唱える。


お堂の脇の無縁仏らしいお墓の石が寂しそうにみえた。


「おんあぼきゃべいろうしゃのうまかぼだらまにはんどまじんばらはらばりたやうん」
それはあの光明真言だった。


隼は大日如来の御加護が魂を癒してくれると信じていたのだ。

私は隼の優しさに涙しながら追々していた。




 納経を済ませそのまま大通りに向かうことにした。
でも途中にあった今宮神社の御神木に私は惹かれていた。


八大龍王院今宮神社。
駒つなぎの欅が見える。


此処も今宮坊と同じく駒つなぎの欅と言うそうだ。


実は以前は今宮神社と今宮方は同じ敷地内にあったそうだ。

それが神社仏閣を分けるしきたりに変わったそうなのだ。


「あっ、だからか」

突然私が言っていた。


「あのね、阪東札所の境内に狛犬がいたの。もしかしたら神社の名残だったのかも知れないね」


「あれっ、もしかしたらその神社ってうちの大学の上にある……?」


「うん、そうよ隼の大学のオープンキャンパスの後で寄ってみたの」




 でも言ってから隼が大好きだからって言っているようだと気付き、急に恥ずかしくなっていた。

上目使いでそっと隼を見るとまんざらでもないような顔をして笑っていた。


今宮神社は御花畑駅の東側の道を大通りまで行き、信号の先の坂の下にある。

其処から龍神池が見え、龍の形をした噴水が斜めに噴き出していた。


その脇の木の幹が侵食されていて、中には真新しい仏像が安直されていた。


私は隼への思いを押し隠すように、その噴水を眺めていた。


瓢箪のような形でもしているのだろうか? 二つの池に架かる赤い橋が綺麗だった。




 三百円払ってペットボトルを購入して、武甲山の服流水をその中に貯めた。


龍の形をした注ぎ口。
その向こうには小高くなっていて上には観音様のような像があった。




 携帯で時間を見ると九時に近かったのでま、急いで観光案内所に戻った。

私達は何とかレンタサイクルを借りることが出来たのだった。


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