大好きな君へ。
 「ねえ優香、幸せは一人じゃ叶えられないって知ってる?」


「えっ、どうして? 独身でも幸せオーラ全開の人も大勢いると思うよ」


「人と人が支え合って人と言う字になるんだ。幸福の幸から一を引いてみて」


「イチを引くの? 駄目だ、コウからイチ何て引けないよ。サチならチだけは引けるけど……」


「えっ、解らないの? あっゴメン、ナゾナソかと思ったのか? 漢字の一だよ。幸の一番上の一を引けば、辛いって字になるんだってさ」


「隼ズルい。答えバラさないでよー。えっ、じゃあ反対に辛いって字にーを足すと幸せってことね。あっ、だから誰か傍にいてくれれば幸せなんだね。私達みたいに」


「そうだよ。その辛いって字が今までの僕だった。僕はまだ半人前だから、優香が一を足してほしいんだ。優香の指導が無ければ僕は始動出来ない。だからこれからも僕を支えてください」


「はい。精一杯頑張りますので任せてください」


「お、頼もしい。でも、堅苦しく考えないで」


「解ってる。昨日家を出る時に父に言われたの。『愛すればいい』って」


「愛すればいい? 誰でも?」


「そうよ、誰にだって長所はあるからね」


「其処を見つけて誉めるとか? 流石保育士」


「園長先生にも言われたの。『育った環境も考え方も違う二人だから戸惑うかも知れないけど、コントロールしようとか思ったらダメよ。人の気持ちは変えられないけど、自分の性格は変えようと思えばは変えられるから』って」


「きっと原島先生は僕にも言いたかったんだな。優香を大切にしてやれって」


「もう充分されてます」

優香の言葉にドキンとした。
僕は本当に優香を大切にしてきたのだろうか?
優香の前で結夏を愛していた事実を打ち明けたあの日、僕は優香を振り向かせるために必死だった。
優香は大人だ。恋人がいてもおかしくはない年頃なのに……
僕を選び愛してくれると言った。


だから僕は優香の願うことは何でも叶えてあげたいのだ。




 「さっきも言ったけど、僕は優香の夢を応援するよ。だから安心して、あの地蔵菩薩に纏わり付いていた子供達を此処に呼ぼうね」

僕はそう言いながら、もう一度優香の体を引き寄せた。


「あん、隼ズルい」


「ダメ?」

そっと優香を見ると真っ赤になって俯いていた。


「隼の意地悪……」

優香は甘い声を上げながら僕の背中に手を回した。



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