大好きな君へ。
 「あぁ本当に隼人が三つ子……いや、双子となって来てくれたら嬉しいな」


「でしょ? でももう一人の子供が結夏さんの生まれ変わりだとしたら、もっと嬉しくない?」

優香は微笑んだ。


隼人を賽の川原から救い出すが結夏の希望だと優香は信じている。
でもそれは隼人を自分のお腹で育てるための儀式だった。


本当はそれだけじゃなくて、結夏を隼人の兄弟にしようとしているのだ。
僕は優香の一途な愛に精一杯報いようと思っていた。


だって双子が出来たら、僕達は何時でもラブラブでいられるから……
ただ、望めば誰でも帝王切開にしてもらえるかが心配だったけど……




 「うふふ……、隼。今三つ子だと認めたわね」


「いや……、うーん認めたかな?」


「認めた、認めた。隼もやっぱり三つ子が欲しいんじゃないの?」

とんでもないタイミングで優香が僕を攻める。


「ああ、認めたよ。『隼聞いて。私、仕事をしたいの』って言ったのを聞いてたから、セーブするよりいいのかなって思った」


「そうよ。私は本当は沢山の子供が欲しいの。でも産休ばかり取れないでしょう?」


「そりゃそうだね」

僕は思わず笑い出した。


「もう、笑わないで。私は本当に真剣なんだから」

優香はわざと顔を膨らませている。その仕草がどうしようもなく心を燻る。


僕は堪らなくなって、何度も何度も優香と唇を重ねた。


外は雨が降っている。
僕達はそれをいいことに何時までも布団の中でイチャイチャしていた。




 昨日はアニメにも登場した吉田地区の龍勢まつりだったようだ。
御花畑駅に着いた時、構内にもポスターは貼ってあった。
目にしているはずなのに見過ごしていた。


優香は札所三十二番のお地蔵様に抱かれた裸の子供達を救い出したい一心だった。
僕は僕で、初夜に優香を抱けないショックで心これに在らずの境地だったのだ。




 そして今日は俳人松尾芭蕉の命日で、時雨忌と歳時記では表記される。
昨日の雨と今日の雨は違った。
それは紛れもなく時雨に近かった。




 「優香……本当に三つ子が誕生すればいいね」


「一人は隼人君。もう一人が結夏さん。そしてもう一人は……? ねぇ隼、誰か他に居ないの?」

優香の発言にドキンとする。
でも、幾ら考えても結夏以外の女性と肌を重ねた覚えはない。


「居ないよ」


「何考えてたの? さっきは即答だったのに……」

今度は優香が僕をからかっていた。




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