大好きな君へ。
「こっちの地蔵菩薩真言が大事なの」
「オンカカカビサンマエイソワカ?」
「口奄訶訶訶尾娑摩曳娑婆訶
胎児と言えど人なのだと優香は言った。
だから供養してあげたいそうだ。
たとえそれによって祟られようと構わない。
それには優香の深い慈愛に満ちていた。
僕は思わず目頭を押さえた。
「三途の川って聞いたことがあるでしょう? そこにあるのが賽の川原って言うの」
「賽の川原……」
「ねえ隼、賽の河原って知ってる? 群馬の草津にもあってね。でも、其処では確か西って書くらしいわ」
「名前だけなら……」
「私も良く知らないんだけどね。亡くなった子供達が賽の河原で親を思いながら石を積むと、鬼が出て来て壊すんだって。その子供達を守っているのが地蔵菩薩なんだって」
「だから地蔵菩薩真言なのか?」
「そうよ。その真言が賽の川原から子供達を救い出してくれるそうよ」
賽の河原……
死んだ子供が行くと言われる冥途の三途の川のほとりにあるとされる。
父母の供養のために小石を積み上げて塔を作ろうとすると、たえず鬼に崩される。
無駄な努力とも解釈されるが、それでも子供は小石を積む。
地蔵菩薩はそんな子供を守るために存在しているのだった。
だから辻々で、子供達を見守っているそうだ。
だから僕はその真言を一心不乱我が子に捧げた。
その姿に優香は泣いていた。
「さっきの光明真言と地蔵菩薩真言を組み合わせることで水子の霊も救われるのだって。これを用意してから真言するの」
蝋燭、線香、炊いたお米、水、髪の毛一本、段ボール、半紙、墨と硯、筆。
まず胎児の名前を決める。
胎児だって人だから、隼の下に付けて隼人にした。
本当は男女どちらでも通じる名前がいいそうだ。
でも隼の子供なのだから隼人しかないと優香は言った。
半紙に名前を書き、段ボールの間に髪の毛を挟みご飯を糊にしてくっつける。
僕達は八月十五日の土曜日から九月の十九日の土曜日までの三十六日間、毎日朝早くから光明真言と地蔵菩薩真言を唱えることにした。
そして最後の日にその名前が記された半紙を胸に仕舞うつもりだ。
その前日の夜は優香は僕の部屋に泊まってもらう。
それは翌日から行く、秩父札所巡礼の準備のためだった。
帰って来てから菩提寺に行ってお焚き上げをしてもらうことにするつもりだったのだ。
「オンカカカビサンマエイソワカ?」
「口奄訶訶訶尾娑摩曳娑婆訶
胎児と言えど人なのだと優香は言った。
だから供養してあげたいそうだ。
たとえそれによって祟られようと構わない。
それには優香の深い慈愛に満ちていた。
僕は思わず目頭を押さえた。
「三途の川って聞いたことがあるでしょう? そこにあるのが賽の川原って言うの」
「賽の川原……」
「ねえ隼、賽の河原って知ってる? 群馬の草津にもあってね。でも、其処では確か西って書くらしいわ」
「名前だけなら……」
「私も良く知らないんだけどね。亡くなった子供達が賽の河原で親を思いながら石を積むと、鬼が出て来て壊すんだって。その子供達を守っているのが地蔵菩薩なんだって」
「だから地蔵菩薩真言なのか?」
「そうよ。その真言が賽の川原から子供達を救い出してくれるそうよ」
賽の河原……
死んだ子供が行くと言われる冥途の三途の川のほとりにあるとされる。
父母の供養のために小石を積み上げて塔を作ろうとすると、たえず鬼に崩される。
無駄な努力とも解釈されるが、それでも子供は小石を積む。
地蔵菩薩はそんな子供を守るために存在しているのだった。
だから辻々で、子供達を見守っているそうだ。
だから僕はその真言を一心不乱我が子に捧げた。
その姿に優香は泣いていた。
「さっきの光明真言と地蔵菩薩真言を組み合わせることで水子の霊も救われるのだって。これを用意してから真言するの」
蝋燭、線香、炊いたお米、水、髪の毛一本、段ボール、半紙、墨と硯、筆。
まず胎児の名前を決める。
胎児だって人だから、隼の下に付けて隼人にした。
本当は男女どちらでも通じる名前がいいそうだ。
でも隼の子供なのだから隼人しかないと優香は言った。
半紙に名前を書き、段ボールの間に髪の毛を挟みご飯を糊にしてくっつける。
僕達は八月十五日の土曜日から九月の十九日の土曜日までの三十六日間、毎日朝早くから光明真言と地蔵菩薩真言を唱えることにした。
そして最後の日にその名前が記された半紙を胸に仕舞うつもりだ。
その前日の夜は優香は僕の部屋に泊まってもらう。
それは翌日から行く、秩父札所巡礼の準備のためだった。
帰って来てから菩提寺に行ってお焚き上げをしてもらうことにするつもりだったのだ。