終わらない七月九日
「行くか。」

ナツはそんな飯沼の顔を見もせず、ボートを漕ぎ始めた。

「ちょっとちょっと!無視はひどいんじゃないかな!」

そう言いながら何故か私たちの後を付いてくる飯沼。

「 勿論兄が弟の面倒を見るのは当たり前さ!でも僕の両親は忙しいだろ? そう言えば、彰太は大きくなったらパパみたいな立派な刑事になるんだよな!なっ!彰太!!」

飯沼の父親が刑事だということは、本人の口から何度も聞いていたが、それにしても聞いてもいないことをベラベラと喋る飯沼に、嫌気がさしていた。私は彰太を不憫に思い振り返った。
彰太は風船を揺らしながら、片手で必死にボートにしがみついていた。

「ところで飯沼君って何でナツに付いてくるんだろうね?」

大ちゃんがナツに聞いた。私も顔を戻し、ナツの方を見てみた。

「さぁな。あいつ変わってるし。」

ナツは嫌そうな顔をして、そっぽを向いてしまった。

「でもさ、」

大ちゃんが何かを話しかけたとき、後ろで飯沼の叫び声がした。
< 27 / 34 >

この作品をシェア

pagetop