七色マーブル【短編集】
なかなか出ない。気持ちがソワソワし始めた10コール目で声がした。


「うわっ、久しぶりじゃん。急になしたの?」


これと言って落ち込んだ様子もなく、いつもの声色だった。


「なしたの?じゃないよ。手、大丈夫なの?」


「ん、ちょっと不便だけどなんともないよ。心配してくれたんだ?」


思ったよりも元気そうだ。


「そうだよ。絵が描けなくて落ち込んでるかと思った。」


「まさか!左手で描くのも色々発見があってさ、悪くないよ。」


“まさか!”この一言。あぁ、いつまで経ってもこの人は変わらないんだ。そう思った。

もしかしたら私は、彼女のこんな答えが聞きたくて電話したのかもしれない。


「左手で描くとさ、右手と違って思い通りにいかなくて、未知の動きするんだよね。未知って無条件にワクワクしない?」


「あなたらしいね。ね、なんで怪我したの?」


「絵画教室の生徒さんと飲み会してね、帰り道で転んださ。」


「…聞かなきゃよかった。心配して損した気分だよ。もう若くないんだから程ほどにしなよ。」


「何それ!酒は酔ってナンボでしょっ」


冗談交じりの会話が心地いい。


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