七色マーブル【短編集】
たどり着いたのは埠頭だった。


「ここに座ろう」

「ここ?」

「ここ」

「たまんないなぁ」


満面の笑みを浮かべながらシゲが眺めていたのは、対岸一面に広がる工業地帯だった。


少し夜明けを感じさせる薄紫に、光を纏った無数に張り巡らされた金属のパイプや煙突にタンク。鈍く光るそれらは幻想的に浮かび上がり、どこか異質な景観を作り出していた。


「…好きなの?」

「うん。」

「無条件にわくわくするんだ。巨大な鉄の建造物にね。この吸い込まれそうな感じ、畏怖かな?昼間の太陽光を浴びてギラギラ鉄っぽいのもいいけど、朝方醸し出される盛観なおどろおどろしさが好きなんだ。」

「……」

「人工的って言っても、ここまでデカいと自然だよ。空に浮かぶ雲と月と同じ。んー今日は満月だね。」


ハッとした。もしかして…今日って十五夜だった?


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