王太子殿下の溺愛遊戯~ロマンス小説にトリップしたら、たっぷり愛されました~

そしてくるりと振り返り、中でまだ少し惚けているエリナに向かって手を差し出した。


「おいで」


キットの紺碧の瞳に誘われたエリナは、操られるようにしてフラフラとその手に華奢な手をのせてきた。

キットはその手をしっかりと握り返し、彼女の腰に反対の手を添えながら馬車から降ろしてやる。


すっかり自分の役割を奪われたウィルフレッドが、目を細めて金色に光らせながら睨んでくるのには気付いていたが、完全に無視した。


(さっさと妹離れしやがれ)


ウェンディに結婚を申し込まなければいけないのだから、ちょうどいいのだ。

最もその結婚話も、ウィルフレッドが神託のことを話してしまったために、どうなるか微妙なところではあるが。


キットはそのままさり気なく誘導してエリナに自分の隣を歩かせ、肩を竦めたウィルフレッドがふたりの後を追って屋敷に入った。


ウィルフレッドのエリナに対する愛が乳兄妹としてのものだとわかっていても、目の前でベタベタされればなんとなくおもしろくないキットである。

この女にモテるイケメン公爵もそうであるが、あの顔をしたランバートなど、キットとしてはエリナには絶対に近付けたくない。
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