王太子殿下の溺愛遊戯~ロマンス小説にトリップしたら、たっぷり愛されました~

この世界でも敵は多いが、例え彼が現実の世界にーー稀斗に戻れたとしても、瑛莉菜に惚れるならば覚悟しろという弥生なりの忠告だろう。


(まあ、八割は俺をやきもきさせて楽しんでんだろーけど)


弥生には、ふたりが出会えばキットがエリナに惹かれていくことも、なんとなくわかっているのかもしれない。

そして瑛莉菜の初恋のエピソードを知るキットは案の定、弥生の思惑通りに庇護欲を刺激され、まだ会ったばかりだというのに、エリナから目が離せなくなってしまっているのだ。


屋敷に入るとすぐに、侍女頭でエリナの母親でもあるステイシーやアメリアたちが3人を迎え入れた。


「エリー、キットを客室に案内してやってくれる? まだ昨日の疲れが残ってるだろうから、着替えたらしばらくゆっくりするといい」

「はい、わかりました」


ウィルフレッドはすぐに侍女としての仕事に戻ろうとするエリナにそう伝え、ふたりを残して自室に引き上げる。


「こちらです」


エリナは背の高いキットを見上げて言い、それからこの別邸でいちばん上等な客室へとキットを案内した。

先ほどまでは深く考え込むような表情をしていたのに、今はもうすっかり侍女として、キットの数歩前を歩いている。

キットはエリナの揺れる黒髪と、華奢な肩のラインを見つめていた。
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