王太子殿下の溺愛遊戯~ロマンス小説にトリップしたら、たっぷり愛されました~
驚いているのかなんなのか、人並みに恋をしてきたはずの女性にしてはあまりに可愛らしいその反応に、キットは困ったように笑う。
弥生はきっと、こうやって彼女の様々な反応を引き出して楽しんでいたのだろう。
「キット、あの……」
「ん?」
されるがままになっていたエリナが、控えめにそろりそろりと顔を上げる。
どうやって自分が稀斗であることを伝えようかと考えていたのだが、自分の胸の中から見上げてくる空色の瞳と目が合うと、その思考もピタリと止まってしまう。
「大丈夫ですから。きっとウィルフレッドさまがはちみつをもらってきてくれますし、私も、ヴェッカーズ伯爵からラズベリーを譲っていただけるよう、がんばります」
だから心配しなくていいと言うエリナを、とっさにぎゅうぎゅうと抱きしめてやりたい衝動に駆られ、キットは両腕に力を込めてぐっと堪えなければならなかった。
こういうところなのだ。
弥生から話に聞くだけだった頃から思っていたように、瑛莉菜はなぜか稀斗の庇護欲を特別刺激する存在だった。
実際に出会い、その腕の届く範囲に彼女がいる今、それは抑え難い衝動となってキットの胸の内に沸き起こる。