王太子殿下の溺愛遊戯~ロマンス小説にトリップしたら、たっぷり愛されました~
エリナはこの小説の中で自分だけが現実世界の人間だと思っている。
だからエリナからしてみれば、キットの命を救うのと同じくらいに、この世界から脱出する自分自身のために、禁断の青い果実が必要なのかもしれない。
心細いはずなのに、弱さを見せることもなく、ましてウィルフレッドやキットに頼るどころか、自分で果実を完成させようとしているのだ。
エリナのそれはただの自己犠牲でもなければ、か弱い女の子でもない。
放っておけばひとりでどこまでも行ってしまいそうで、キットは壊れものに触るかのように、そっと彼女の頬を両手で包み込んだ。
「大丈夫だから。心配すんな」
キットは有りっ丈の想いを詰め込んで、エリナに同じ言葉で返してやった。
誰かが彼女の側に立ち、本当に危険なときは彼女を守り、大切にしてやらなきゃいけない。
エリナの強さと隣り合わせの危うさは、キットの庇護欲をこれでもかと言うほど煽るのだった。
キットは驚いて反応できないエリナの頬を包み込んだまま、彼女の瞼にそっと唇を押し当てた。
これからエリナを守っていくのは、ウィルフレッドではなく、自分なのだと、優しく彼女に教えるためのキスだった。