王太子殿下の溺愛遊戯~ロマンス小説にトリップしたら、たっぷり愛されました~
「なっ、なな、なんで……!」
しかしキットの想いなど知らぬエリナは、ぼんっと音がするほど勢いよく、白い頬を朱く染め上げる。
「くくっ、なんだよその反応。ウィルによくされてんだろ?」
エリナの反応が期待以上だったので、キットは嬉しそうに切れ長の瞳を緩めて笑った。
灰色がかった青紫色の瞳が細められると、精悍な顔付きが一気に屈託のない表情になって、エリナはつい目が離せなくなってしまう。
(わっ、わたしだって、よくわかんないけど……ウィルフレッドさまとは違うんだもん!)
キットに触れられ、見つめられると、わけもわからずドキドキしてしまうのだ。
キットが自分に触れるときも、不思議な色の瞳が自分を映すときも、彼からは今までエリナが向けられたことのないような感情が伝わってくる。
くすぐったいような、包まれるような感覚が何なのか、エリナにはまだわからない。
確かなのは、胸がきゅうっと締め付けられるのはキットのせいであって、それは今までのどの恋人も彼女に与えてはくれなかったものだということだった。
「あとでウィルの書斎においで。作戦会議をしよう」
馬車を降りるまではどこか面白くなさそうな顔をしていたくせに、突然上機嫌になったキットが言う。
そして彼はもう一度エリナの頭のてっぺんにキスを落として、説明のできない気持ちにアタフタと混乱するエリナを楽しそうに見やった。