王太子殿下の溺愛遊戯~ロマンス小説にトリップしたら、たっぷり愛されました~

「禁断の青い果実の作り方について調べてたんだ。もう300年もの間実際にこれを作った人はいないから、王宮内にも具体的な方法を知る人はいなかった」


エリナがキットの隣に立つと、彼はちらりとエリナを目の端に映し、すぐに手に持った古びた大判の本の中に視線を戻した。

キットが持っているのは、ウィルフレッドの母方の家であり、かつては王家を追い出された3人の王子のうちの長男であったボールドウィン伯爵家に伝わる、この国の歴史を記した本だ。


ボールドウィン伯爵家の最後の姉妹が共に嫁いだことで、その領地や財産は少なからず王家に吸収されてしまったが、こうした膨大な知識は、現在はランス公爵を名乗るウィルフレッドにきちんと受け継がれている。

本邸の図書室や書斎にあるものも含めれば、ウィルフレッドの手の中にはかなりの数の貴重な資料と本が眠っているのだ。


「たぶんこれだと思うんだ」


エリナがキットの肩越しに本を覗くと、キットがある一箇所を指差した。

エリナは呪文を唱えるように小声で、その文字を辿ってみる。


「『甘く香しいはちみつにブルーローズの花びらを一枚浸し、銀色の月夜を三晩眺め、恋する乙女は涙を流した。溶け出し空色に輝くそれにラズベリーを加え、13時間の後、禁断の青い果実は完成されたり。』」


それを読み上げたエリナは、ハッとしてキットの青い瞳を見上げた。
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