王太子殿下の溺愛遊戯~ロマンス小説にトリップしたら、たっぷり愛されました~
エリナはアーモンド型の瞳を不安気に揺らしてキットを見上げたが、当のキットはぶつぶつと何かを呟きながら本を棚に戻した。
視線を漂わせたまま、考え込むように顎に指を滑らせる。
「4日後に……つまり、俺が死ぬちょうどその日に、ヴェッカーズ伯爵の邸で13年に一度のラズベリーの収穫祭がある。完成はムリでも、俺が生きてる間になんとか最低限の材料は集められそうだな」
エリナはその言葉にギョッとして大きな目を見開き、思わずキットのシャツの肘のあたりを掴んだ。
「何言ってるんですか? キットが生きていなきゃ、材料だけ集めたって意味ないのに」
この人には、自分が死んでしまったとしても、それでも禁断の青い果実を完成させたい理由があるのだろうか。
エリナは驚いてキットを見上げていたが、キットもまたエリナの言葉に面食らったように、切れ長の瞳をキョトンとさせて彼女を見下ろした。
「私、はちみつもラズベリーもきっと譲ってもらいますから。キットが生きていくために、禁断の青い果実を完成させるんですよね?」
エリナはなぜキットが驚いたような顔をするのかわからなくて、おずおずと上目遣いで確認してみる。
エリナにとって、自分が小説の世界を抜け出すために禁断の青い果実を完成させるということより、目の前の王子の命を救うことのほうが優先なのだ。