王太子殿下の溺愛遊戯~ロマンス小説にトリップしたら、たっぷり愛されました~
昨夜キットに出会ってしまったせいで、その目的はより切実になり、自分でも無意識のうちに優先順位が入れ替わっている。
エリナにとっても不可抗力に近く、どうしようもなくそうなってしまったのだが、キットにとっては予想外のことだったらしい。
しばらく惚けてエリナを見下ろしていたが、ふっと口元を緩めると、エリナの頭の上にぽんっと手のひらをのせ、へなへなと力を抜かれたように微笑んだ。
「ああ、そうだな。けど昨日も言った通り、俺の許可なくヴェッカーズ伯爵がエリナに触れるのは禁止だから。たとえエリナでも、それは許すなよ」
「でも……」
話の通じそうなウェンディとは違い、ランバートからラズベリーを譲ってもらうのは難しそうだ。
昨夜の様子を見る限り、禁断の青い果実の完成にキットの命がかかっていることなど、知られてはいけないだろう。
そうなれば、ラズベリーを譲ってもらう方法は、今のところエリナがランバートの望みに応じる他なかった。
「うーん、そうだな」
考えていることが顔に出ているのか、キットはエリナの想いを読み取ったように視線を彷徨わせ、それからいいイタズラを思い付いたというようにニヤりと笑ってみせた。