王太子殿下の溺愛遊戯~ロマンス小説にトリップしたら、たっぷり愛されました~
「一層の事、収穫祭に乗り込んで盗んでくるか」
「だっ、ダメですよ!」
たとえ神託によるものであっても、王子が自治権のある伯爵領からラズベリーを盗み出すなんてマズい。
しかも相手がヴェッカーズ伯爵なら、それをネタにキットを貶めようとすることくらい簡単に想像が付く。
キットは慌てるエリナを見て頬を緩ませて笑い声をもらし、頭の上に置いていた手のひらで軽く黒髪を乱して満足そうな顔をした。
冗談、ということだろうか。
一国の王子様のはずなのに、イマイチ距離が近すぎるというか、なんとなく掴みにくい人だ。
だがキットが今だにクスクスもれる笑いを堪えようとしているので、とにかくからかわれていたことはわかった。
「私、ほんとに必要だと思えば、自分のやりたいようにやりますから」
エリナが拗ねて下唇を突き出すと、キットの表情がドキッとするほど優しくなり、頭の上にあった手のひらが頬を伝っておりてくる。
「わかってる。だけどそのときは、俺も俺のやりたいようにやるから」
それは、昨日も彼が言っていたことだ。
キットはエリナを包み込もうとしてくるが、決して縛りつけようとしているわけではない。