王太子殿下の溺愛遊戯~ロマンス小説にトリップしたら、たっぷり愛されました~

「ラズベリーと引き換えにエリナを差し出すくらいなら、俺が伯爵のご機嫌を取りに行く。忠犬のように尽くして傅いて、褒美にラズベリーをもらう」

「え、ええ? いや、それは……」


キットがランバートにへつらう姿を想像して、思わず首を傾げた。


王子の自覚があるのかないのか、容姿や雰囲気は適度な甘さと高潔さに溢れるキットだが、息を飲むほど精悍な表情をするのとは裏腹に、口調や仕草の端々には荒さと無骨さが垣間見える。

ウィルフレッドと接する時や、時折見せてくれる屈託のない笑顔は少年のようだ。

エリナを助けてくれた姿や、彼女に対する態度からは、国の王太子というよりは騎士隊の青年と言われたほうが納得がいく。


そのキットが"忠犬のように尽くして傅く"ところをイメージすると、なんだか滑稽で笑えてしまうのだった。


エリナがくすくすと笑みを堪えながらも口元をほころばせると、キットは一瞬きょとんとしてその表情を見つめ、それから一層イタズラっぽく笑った。


「おい、俺だってやればできる。なんなら今から傅いてやろーか? お嬢さん」


キットが跪いてエリナの手を取り、指先に恭しくキスをする。


「ふふふ」


だけどやっぱりどこか似合わないし、キットの切れ長の瞳はイタズラっぽく光っていて、エリナはそのくすぐったさに笑いを堪えきれなくなる。
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