王太子殿下の溺愛遊戯~ロマンス小説にトリップしたら、たっぷり愛されました~
・はちみつの令嬢
王都から北へのびる街道を馬車で丸半日かけて進むと、国中でも特に広大で豊穣なランス公爵家の領地に入る。
ウィルフレッドとキットは、王都にある別邸を昼過ぎに発った。
キットがひとり別邸に残るエリナを軽く抱きしめ、道中様々なことに気を付けるように言うと、それに煽られたようにウィルフレッドからも熱い抱擁を受けた。
ウィルフレッドには、キットに対抗しようとする節と、そうすることでキットを煽ろうとする節がある。
エリナは夕方頃に別邸を出発し、王都の東側にあるコールリッジ伯爵領を目指していた。
1日が長いこの季節なら、おそらく日が落ちる前にコールリッジ伯爵家の邸へ到着するだろう。
ランス公爵領は国の最北までのびており、隣国との間には険しい山々が続くのだが、コールリッジ伯爵領は比較的平坦な土地であり、隣国との交易の場としても栄えている。
多くの旅人や商隊とすれ違い、辺りが茜色に染まりはじめた頃、エリナを乗せた公爵家の馬車はコールリッジ家の邸へと辿り着いた。
「お待ちしておりました、レディ」
そう言って馬車のドアを開けたのは、美しいダークブロンドに深い緑色の瞳をもつ、エリナと同年代くらいの男だった。
コールリッジ伯爵家の長男である、エドガーだ。