王太子殿下の溺愛遊戯~ロマンス小説にトリップしたら、たっぷり愛されました~
兄がそう言うと、ウェンディは俯けていた顔を弾かれたように上げ、翡翠色の瞳には薄く涙さえ浮かべて、エリナへ懇願の眼差しを向けた。
「本当にごめんなさい。だけど父は、ウィルフレッドさまとはあいさつ程度で、きちんとお話ししたことがないの。ちゃんと話せばわかるわ。私でもわかったもの、ウィルフレッドさまは、その……」
膝の上でスカートを弄り、少し恥ずかしそうにしたものの、はっきりと響くしっかりとした声で言う。
「素敵な方です。まっすぐに見ればわかるの」
エドガーは妹に慈しむような視線を向け、こくりと小さく頷いた。
「私が伯爵令嬢になることを選べなかったように、ウィルフレッドさまが望んで公爵になったわけじゃないんだわ。それなのに、彼の意思ではないことを、彼の全てのように言うのはおかしい」
彼女がそう言い切るのを聞くと、エドガーが静かに立ち上がり、そっと部屋を出て行く。
ウェンディは膝の上で両手を祈るように組み合わせ、強い決意を感じさせる眼差しで一点を見つめていた。
「お父さまのやり方が全て間違っているとは思わないけど、誰かが変えないといけないのよ。300年も前のことに私たちが振り回されるなんて、本当はとても悲しいことでしょ?」